108.暗闇の保健室・後編
「コーホー、コーホー・・・」
暗闇の中に無気味な呼吸音だけが静かに響き渡る。
ウォーズマンのモノマネが得意な(謎)我らがスコールは、 カギをかけたとはいえ、いつ誰が来るともしれない入り口の方を気にしつつ、 ゆっくりとセルフィのほうに近づいていき、そしてそっと顔を覗き込んだ。
「はぁ~・・・それにつけてもセルフィの愛しさ」(謎)
緊張からか無意識のうちに得意のモノマネ(?)を連発してしまうスコール。
「セ、セルフィ、、、」
スコールは、呼びかけるでもなく目の前で眠っているその人の名を呟くと、 起こしてしまわない様にそっと・・・静かに彼女の肩に手を置いた・・・
ノースリーブのため、あらわになっている彼女の素肌からはやわらかな温もりが伝わってくる。
「(フゥ・・・)」
スコールは天を仰ぐと、そっと息を吐き出した。
「(・・・ドキドキ・・・)」
続いてスコールはもう片方の手を自分の息で少し暖めると、 その手でゆっくりとセルフィの頬を包み込んだ。
「(・・・セルフィ・・・)」
ここまで来てしまうともう後には引けない、
スコールは緊張と興奮で頭がボーッとなりつつも、 淡々と作業をこなすような冷静さを持ち合わせているように見えた、
しかし、その目はすでに据わっていた。
起きて欲しくない反面、心の奥底では、本当は今のでセルフィに起きて欲しかったとスコールは思っていたのかもしれない・・・
が、セルフィは起きてはくれなかった・・・
そのことはスコールの行動を、より本能的なものへと変えて行くのに十分だった。
「(・・・次は・・・)」
先ほどまではセルフィが起きるといけないので、彼女の目をじっと見詰めていたスコールだったが、 彼は彼女の目が開かない事を常に確かめつつも、その視線の先をゆっくりとくちびるへと移していった・・・
「(・・・ハァ、ハァ・・・)」
少しだけ開いたセルフィの小ぶりなくちびるを見て、 おさまっていたと思われたスコールの胸の鼓動が再び激しくなり、全身に熱い血が駆け巡り始めた。
スコールは無意識のうちに口を半開きにし、舌でくちびるのあたりを濡らしていた・・・
「(・・・キ・・・ス・・・)」
スコールは右手をセルフィの頬からそっと離すと、 その手を自分の口のあたりにもって行き、中指の先をすこし湿らせた。
スコールの心臓の鼓動はさらに速さを増し、いまにも喉の奥から飛び出してきそうだった。
ここまで来ると、もうその行動は無意識のうちに内から出るものだった。
スコールは全神経を集中させ、濡らした指先でそっ・・・とセルフィの唇に触れてみた。
「(・・・はっ・・・!)」
その何とも言えない感触にスコールは全身に電気が走ったような感覚を覚えた。
スコールはもう自分自身ではどうにも制しきれないところまで来てしまっていた。
今ここでセルフィが起きたら、、、などという事はもうすでに頭の中から消えていた。
あるのはただ・・・セルフィを求める事だけだった・・・
スコールは周囲の様子をちらっと確認したが、またすぐにセルフィへと視線を戻した。
「(・・・キス・・・初めての・・・セルフィと・・・キス・・・)」
スコールはぐっと身を乗り出すと、くちびるを舐めながらゆっくりと顔を近づけて行く・・・
セルフィのくちびるを目に焼き付け・・・そっとまぶたを閉じる・・・
震えるくちびるを少しだけ開き気味に、いよいよセルフィのやわらかなくちびるに自分のくちびるをかさねあわせようかというその瞬間・・・!
ギロ!
ベッドの上で何かが黄色く光るのを感じてスコールは慌ててセルフィから身を離し、そっちを振り返った。
すると、なんと寝ているはずの料理長の目がギラギラと黄色く光っているではないか!!
「ヒィッッ・・・!」
料理長が布団から出したその手には、なんとセルフィの手がしっかりと握られている。
そしてもう片方の手で、自慢の中華包丁をそっと覗かせ、無言のうちにスコールを威圧してきた。
そのあまりの眼光にスコールは固まった表情のままゆっくりと後ずさりしていき、後ろ手に入り口の戸を開けると、一目散に走り去っていった。
* * *
「ハァハァ・・・やっぱり悪い事は出来ないのだ(-_-;)」
スコールはグラウンドの手洗い場で何度も頭から水をかぶり、 ぴしゃぴしゃと自分の頬をたたくと学生寮に向かって歩いて行った。
参考資料:「それにつけても姫のいとしさ」(蜷川新右衛門)