45.変化(へんげ)
ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・
セルフィを見送ったあと、スコールはしばらく玄関のドアに頭をあずけたままで立ち尽くしていた・・・
何を考えるでもなく何を迷うでもなく、そして何を思い悩むでもなく、 ただただ、みずからの胸の鼓動の高鳴りを静めようと冷たいドアに身を任せていたのだった。
ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・
「スッスッ~ハァ~・・・スッスッ~ハァ~・・・」
ゆっくりと間違った深呼吸(?)を繰り返すスコール・・・
が、その胸の鼓動は彼の意に反し、更に高鳴りを増していったのだ。
ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・
「・・・なんだ・・・俺の心臓はどうしちまったんだ・・・クソッ、落ち着け・・・落ち着くんだ・・・・・・ ハッ!・・・もっもしやこれは・・・!?」
ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・
と突然、彼の耳の奥底でなにかがはじけ飛ぶような音がした。
・・・ピーンンンンンッッッ・・・・・・
次の瞬間!
スコールの体は、全身の筋肉が激しく隆起し、その着衣をビリビリに引き裂き、 同時に全身の体毛も皮膚を覆い隠さんばかりに伸び、外見はまるで猿人のそれの様になってしまったのであった!!
「フガーッ!!」
狂気の獣と化したスコールは目の前に立ちはだかる玄関の鉄扉を、 そのまるで巨大な岩石のごとく頑強となった拳でブチ抜いた。
ズバァーン☆
そして大きな地響きをたてながらスコールはゆっくりと廊下に歩み出る。
たまたま廊下に居合わせた寮の学生達は、自分がSeeD候補生だという事も忘れ、 蜘蛛の子を散らすように慌てふためき逃げていった。
「ギャオーッ!!!」
今にも口から火でも吐きそうな勢いの、形容しがたい叫び声をあげるスコール。
このままでは学生寮はおろか、バラムガーデン自体さえも破壊される恐れがある!
ピーンチ!この危機を救う救世主はこの世には存在しないのかっ!?
ここバラムガーデン男子学生寮2階廊下は、今まさに星の存亡を占う程の極限状態となっていた。
・・・が、次の瞬間スコールの目の前が一瞬真っ白になったかと思うと、 ひざからガクリと崩れ落ち、そして彼の目に映るありとあらゆる全ての物がゆっくりと闇に包まれていったのだ・・・。
ズーン・・・
・・・10分後・・・
「ハッ!?」
気がつくと、スコールは自分の部屋の入口のドアをなぎ倒し、そして自分もまた廊下で倒れていた。
先ほどまで猿人となっていた気がした自分の体を触って確かめてみるも、 今は全く普段のそれであり、少しもおかしなところは認められなかった。
スコールは頭をブンと一振りして呟いた。
「ふぅーイカンイカン・・・昨日見た映画のせいかな・・・?」
ぶつぶつ言いながらスコールはドアを元に戻すと、 少し時間は早かったが、実地試験の集合場所であるガーデン一階の案内板前へと向かった。
・・・どうやら彼は、昨晩明け方まで見ていた香港映画『ドラゴン’ズ・ボール』の影響をもろに受けているようだった。